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 実は"本としては"読んでいない。んだけどまあ、発売記念と羨望混じりの恩讐を込めてということで。

 好きな作家が2巻以降に対談を載せているとの話から知って読むことになった、なんというか、ネット上で有名になったSSの書籍化。

 もちろんサイドではない(明確にそうとも言い切れないところはあるが、まあいい)し、真面目に埋めている文庫本数冊単位程度の分量があるものをショートと呼ぶのははばかられるので、これをSSと書くことには抵抗があるのだが、文体が似ているからとケータイ小説と呼ぶわけにもいくまい。いわゆる"VIPでよくあるSS"という手続き踏んでるものなので、SSでいいやという気もする。ウェブがもはやワイヤードではないのにオンラインと呼ばれているとかそんな理屈で。
 で、自分はこの分野に明るくない(以前、まとめサイトでそこそこ規模の大きいやつを数点通読した程度なので、そこにある文学的背景――どんなものだろうが、まとまった過去作品がある以上、思想的な背景だの文脈だのはきっと語れるんだろうという意味で――なんかは僕の知ったところではないので、知った顔で的外れなことを書いてるのも)が、まあいいか。これ読書感想文だし。
 ついでに言っておくと、本として編集されるより前に全編を通読しているため、物語にかかわるネタバレが多く含まれるのでそこのところも注意。まあ、誰も読んでないだろうから空しいだけなんだけど。

 さて、どういう話か。
 自殺するCRPG的なファンタジーである。

 一言で終わってしまったので、もう少し詳しく書くと、要するに典型的なCRPGに外部視点を導入して、壊そうとする話である。そういうと思い出されるのは『moon』だけれど、これとは微妙に視点が違う。どう違うか。
 『moon』では、CRPGのお約束という上で、書き割りにならざるをえない登場人物たちに焦点を当てていいる。よく言われる"ゆうしゃの所業って強盗じゃないか"とか、"なんでモンスターを倒していいんだ"とかそういう話だ。だけれど、あくまで世界は箱庭であり(だからこそ、戯画化を抜けようとする戯画的な登場人物たちが面白くも悲しげに訴えかけてくるわけなんだけども)、世界は"舞台として用意されているから"という理由で、破綻を起こすことなく回っている。
 『魔王勇者』(一般的にまおゆうと呼ぶ方がいいんだろうが、まあこれ読書感想文だし書籍名にしておこう)では、その視点が、世界の側へ向いている。

 ちょっと前に、経済学的な視点とかなんとかと褒められていた(ような気がする。世間に暗いぶんよくわからない)作品に、『狼と香辛料』があって、ある意味では『魔王勇者』はこれの二匹目の泥鰌をうまく掬い上げて蒲焼にしているようなものといえる(正規の手順を踏まずに脚光を浴びるところまでのし上がってきたという意味で)。まあ、しかし、それだけではない。
 表向きに進行する物語としては、「物語として成立するがためにそれ以外の力を持たない"物語の中の常識"を、"現実の世界"で成功してある程度有力と認められる思想信条で侵略する」話であって、その"現実"の思想信条がいわゆる資本主義を支えている是というやつなのである。デカルトが不本意にもぶち抜いてしまってからこっちの西洋思想、「人間は個人であり、自由である」というやつだ。初期でその敵対者に向けられる表現が煽情的で苛烈であることから、思想がかっていて気持ちが悪いという向きもそこそこにあるようだけども、まあしようがないだろう。この点は。
 なにしろ、『魔王勇者』の舞台では、すでにその"敵対的で在来の思想"が死に体なのだから。世界を無理矢理変えようとする物語である以上、代替案として説得力のある"主人公の思想"が貫かれるのは物語としてやむを得ないし、その過程で敵対者がクソミソに言われて場合によっては帰順するというのも、よくある話である。

 さて。死に体であると言った。それはなぜか?
 『魔王勇者』の世界は、物語というゲーム盤の上に載っている。ざっくり言うと、世界が「人界を滅ぼそうとする魔王の軍団と人間が争い続けることで予定調和が成立する」ようになっているのだ。これは経済学だの社会学だの、小難しい理屈を持ち出すまでもなく、そうなっている。呪いのようなもんだと思えば間違いない。

 ところが、魔王は主人公になってしまった。
 このへんはぼやかされているのでよく判らない(明言されてもいない)が、要するに魔王はある手段でもって、「世界の外側」を見る機会を得てしまった。そして、"役割によって"規定される世界に疑問を持ってしまった。
 そして、その"役割によって規定される世界"の代替手段として、徹底的な役割の破却を世界に持ち込もうと決意する(勇者に話を持ちかけたのだってその一環だが、まあ個人的な感情が大きいと書かれてるんだろうなあとは思う)。
 要するに、魔王が掲げている思想信条というのは、それが正しいと信じているから正しいと掲げているのではなくて、規定されない自分自身というモノを肯定するために必要な道具立てに過ぎない。もしもっとマイルドなものがあって、その思想書を魔王が読んでいたとしたら、たぶんそちらを選んだのではなかろうか。

 そして、魔王はゲーム盤を下りてしまう。そのために、世界の既存の役割分担は、凄まじい勢いできしみをあげていく。当たり前である。どんな思想信条だろうと、最終的なところで矛盾を解消するためのシステムがぶっ飛んだら機能しなくなる。皮肉にも、だからこそ、魔王の掲げる思想信条は、恐るべき侵食力を以て世界を塗り替えていくことになる。

 そしてまた、それゆえに皮肉にも、物語の最後まで、魔王は魔王以外の何者でもなかった。というのが、この物語の面白いところなのだと、僕は勝手に思っている。

 それは、最後の道具立てが、結局CRPG的な"決戦"へ収束してしまったことを言ってるのではない。世界の破壊者、殺戮者、敵対者として規定された魔王は、しかしその舞台を降りてしまったからこそ、おそらく歴代最大の犠牲者を積み上げることになった。しかもそれは、魔王というロールに背を推されたからではなく、自分で選んでしまった"人は個人であり、自由である"という御旗のもとに。

 あの丘の向こう、というこの物語のモチーフは、ほんとうは、窪地に一人で取り残された気分の魔王の心情という意味なんでないかなあ。とか思うのだ。視野の届く範囲は予定調和で、どこか違うものを見ようとしたら、丘を越えて先へ行くしかない。そして魔王という個人が持っていた手段は、物語中で示されていたものしかなく、そしてまた、他の手段も一長一短で、万能のマスターキーのようなものがあるとは考えてもいなかった。中庸を保つのではどこにもいけないと、たぶん理解していた登場人物は少ない。
 だからこそ、敵対者への言動が過激になるし、その過激な言動を実行するのは魔王自身でなくその信奉者になるのだろうなあ。とか読み終えた後に思っていた。まあ、後知恵だし、作者がんなこと考えて書いてたかなんて知る由もないんすけどね。

 平和な楽園に外部視点が導入されて自分の道具立てで自分の首を絞めて、何もかもが自殺して、だいたい美しいものぜんぶが台無しになることは判り切っているんだが、自分のためにそれをするしかないひとの物語。

 もう少し穿つと、勇者視点、一人称でありながら実は三人称的な見方を要求してくる、ドラクエ2からこっちのCRPG的なもの、もっと言ってしまえばJRPG的なものというのが、主要な読者層のイメージする"セカイ"に近くて、魔王の提示するセカイ(世界ではなくて。セカイ系という言葉をそこまで広く取らなくても、魔王の推し進めるものは、"君にはそれを壊す権利がある"と書かれていて、しかしそれを享受することを選んだ人間は誰ひとりそれをしないであろうセカイ、に他ならない。ああややこしい)は、無力な個人という自己認識のもとで向き合うと絶望したくなる、いわゆる現行の社会システムの近似値を取るように見えるから、だからそれを颯爽と振り回す登場人物がかっこよく見えてるのかもしれないなあ。とかも思うのですが。
 まあ、面白かったからいろいろ無粋なことはこれくらいにしておいて。ということで。

 いろいろかんがみて、この作品見ていて思い出すのは、『moon』より『ボクと魔王』とか『宇宙英雄物語』だったりするのですね。どっちも、僕としては大好きでした。なんで、ちょっと思うところもありますが、読んでしまった以上は、僕は『魔王勇者』を好ましいと思います。
 思えば、自分のため、個人、を強調するのは、既存のストーリーラインへの抵抗って意味だけじゃなく、あくまで自分のために世界を曲げようというところに立脚してるのも大きいのかなあ。


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